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中国企業信用調査について(2021年7月現在)

ままならないデカップリング

 あれからもう10年も経つだろうか?チャイナプラスワンという文句が経済紙面を賑わせ、中国とのビジネスはハイリスクだとさえうたっていれば、企業信用調査の依頼者達にもてはやされる時期があった。それから日系企業の東南アジアへの回帰が活況となり、既に多くの企業が進出していたタイに加えて、インドネシア、ベトナム、メコンデルタ(カンボジア、ミャンマー、ラオス)にまで熱い視線が注がれた。

 その当時、「中国事業撤退セミナー」という類のものが多く開催され、満員御礼の大盛況。結果として、労使紛争を招いたり、蓄積された内部留保を日本に還元する事ができなかったりと、多くの日系企業がなあなあな形で撤退を諦めたのはご存じの通りである。

 元来、高付加価値部分は国内に残し、普及品の製造のみを中国で展開する意向を持つ企業が多かったように記憶しているが、中国が年間2桁近くの成長率を続けるうちに、市場としての魅力でも日本を上回る形となり、中国抜きでは製造も販売も立ち行かなくなったというのが現状であろう。

経済安全保障

 そこにトランプ政権下で加速した米中貿易摩擦というリスクが生じたが、そもそものきっかけは中国企業のガバナンス問題や、その源泉とも言える情報公開の不透明感、不信感などであり、かつてから問題視されていた数々の事象が、一気にアメリカ側のTO DOリストの上位に躍り出たといったとこか。

 奇しくも、米中貿易摩擦によって取り上げられる事が多くなった「経済安全保障」という概念であるが、犯罪収益防止移転法や外為法、不正競争防止法などの関連法が整備されている通り、安全保障貿易やコンプライアンスといった単語により、長く日本のクレジットマネージャーの間で共有されている話題である。

 ただ今回の一連の米中貿易摩擦は、OFACやNDAAに代表される米国側の「取引しちゃだめよリスト」に対し、中国側も「取引しちゃだめよリスト」を提示して対応。さらにそれらの「だめよ」企業と資本や取引関係、はたまたそれらが製造している製品を使っている会社まで「取引しちゃだめよ」に加えて行くという状況で、クレジットマネージャー達を本当に悩ませている。

じゃあ隠しちゃえ

 逆手に取るように、米国の証券空売り会社が、米国で上場する中国企業のIR情報の信ぴょう性をターゲットとし、工商局等に出ている情報と、IR情報の齟齬などを指摘することにより株価下落を誘発。それによって莫大な評価益を得るという手法を確立した。この事が中国当局の逆鱗に触れ、対外的な中国企業情報公開の制限に発展。PBCの意向に逆らって、企業情報を輸出した企業が免許はく奪の憂き目に会うなど、業界全体に情報公開の自主規制を誘発している。(元来この法律は個人情報を取り扱う信用機関(日本でいうJICCやCIC)に適応されるものと解釈される為、自主規制とした)

情報が取れなくても

 そのように、情報取得が難しくなり、与信判断を進める上では赤信号に近い黄色信号という状況であるが、与信判断を諦める・取引を停止するという観点は感じられず、日本企業からの中国企業に対する信用調査の依頼件数は引き続き多い。つまりは、経済安全保障と言われようが、日本の技術の流出だと言われようが、日本企業にとって中国企業との、あるいは中国市場での商売は切り離せなくなっていることの裏付けである。

 はたまた、審査マンと呼ばれた情報をフル活用して、BtoBの与信管理を行うという職人が減少し、「社内ルールで調書を取ることになっているから。点数が最悪じゃない限り与信枠がもらえるから。」という作業としての調査報告書取得が背景にあり、これにより件数が減らないという事もあるかも知れない。要は、相手先の情報をとる事が目的で、それが与信判断に活用される事はないのだ。でなければ、決算書などの情報が取れなくなっているのにも関わらず「もう要らない、情報ないし。」という声が出てこないとおかしいのだ。

不安を煽りますが

 さて、北陸の化学品専門商社など、中国企業調査を疎かにした事により、日本の本社まで倒産してしまったとういケースは複数ある。数万円程度で信用調査報告書が取得でき、少なくとも業容等の改ざんが難しい情報が掌握できるのであれば、中国企業信用調査はぜひ活用すべきだと進言する。ただし、調査報告書としてあがってくる情報については、読み手側にも相応のリテラシーが必要になるので、注意されたい。中国企業調査報告書の内容は、そのまま鵜呑みにしてはいけないケースが多くあるのだ。

 ケース1 軍需産業

 中国企業調査報告書の基になる情報は、中国当局がファイリングしている企業情報データベースである。資本金、設立年月、事業目的、株主、特許、訴訟、輸出入ライセンス、行政執行記録など、ほとんど全部だ。日本でいうところの法務局、商業登記の情報がかなり肉付けされて、かつ電算化された状態で、誰でもすぐ閲覧できると思ってもらえれば良い。日本において、唯一の公示性を持つ商業登記が改ざんされていた場合、その法人の根幹を揺るがす信用問題となるが、中国のそれは当局に都合よくまとめられているケースがある。

 特に軍需産業のように、米国(だけではないが)の制裁規制に抵触しそうな業種である場合、その法人の株主が一般個人(自然人と報告される)になっているケースがある。また、事業内容は機械製造業など、当たり障りのないもので登記される。信用調査報告書は登記を疑いだすと収拾がつかなくなる事もあり、それどおりに報告されてくる。(登記情報なので、間違いとは言えない)他方、同じ企業名を経済安全保障(コンプライアンス)に特化して構築されたデータベースでスクリーニングに掛けると、実は中国当局の管理及び資金により、軍需産業に従事する企業であるため、「取引しちゃだめよ」企業であると見抜くことができるケースがある。

 ケース2 資金源

 今年に入り、中国企業のデフォルト額は過去最高に達し、数兆円~数十兆円のデフォルトが発生したというニュースも飛び交っている。具体的な名前は出さないが、米国による半導体関連の規制に対抗し、中国における自国生産の責を担った超大型企業があった。中国当局の資金源にもなっている、国策企業である。

 中国国内で入手される情報に基づく信用調査報告書では、どの調査機関のレポートも軒並みA評価。この会社は絶対倒産しません!という太鼓判の評価である。残念ながら、この会社は破産。リーマンショック級の問題に派生しないのは、計画経済下でのコントロールが効いていることの現れであろうか。

今こそ昔のアンテナを取り戻せ

 上で触れた、「何か、調査報告書とれっていうルールがあって。」という流れでの依頼が増えている事は残念な反面、富を生まない信用情報の扱われ方としては合理的とも言える。点数だけみて、与信の可否判断をしましょうという世界だ。生産性が追及されてくると、調査報告書の取得は割愛され、AI等を活用した自動判断、自動モニタリング(与信管理)に発展していくことだろう。

 他方、審査マンと呼ばれた職人達も少数とはなったがまだ残っていて、やはり彼らの動き方からは今でも多くを学ばせてもらっている。例えば皆さんは、かつて外貨送入金の窓口機能を果たしていた香港のペーパーカンパニーが、怒涛の勢いで消えつつある状況をご存じだろうか?また、銀行までが(グル(失礼))加担して、それらからの海外送金を止めたり、それらへの海外からの着金を拒否したりという状況が発生しているのをご存じだろうか?それに呼応して、なぜか深圳の企業情報へのアクセスだけが、大きく制限されている状況は?

 これらは、情報ネットワークの使い方が上手い審査マン達が、信用調査会社に問い合わせた事により、明るみに出てきた事象である。問い合わせされた信用調査会社は、当然他の審査マンに確認してその審査マンの経験を聞く。その経験を(自分の知識のように(笑))質問してきた審査マンに伝え、そこに彼の見解や意見が加わって分析が研ぎ澄まされていく。それが循環を繰り返すことにより、ネットワーク全体の知識量と対応策という武器が磨かれていく仕組みだ。

 どうか皆さんには、信用調査会社の担当者をうまく使い、彼ら、彼女らが持っているネットワークからの情報収集機能を活かして欲しい。このように不透明な状況下であるからこそ、日本の輸出・輸入業者全体で知識量を高め、リスクヘッジの手法を研鑽していくことに努めるべきだと思う。その為のハブになり得るのは、銀行か信用調査会社であろう。

 もし将来中国に何かあった時、行政・銀行主導で「経済安全保障」というデカップリングを進めている他国に対し、とんでもなく熱い煮え湯を飲まされるのが日本企業だけという状況が現実的に起こりえるのではないかと、暑さでぼーっとする頭の片隅で危惧してやまない。

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