クレーム製造機
海外企業信用調査の業界に従事して20余年。
「海外企業調査なんて、内容が薄くて意味がない!」
「なんかデータばっかりで、全然文章がない。やっと文章だと思ったら、スコアについての説明だった。」
などなど、ユーザーがレポート内容に不満感を抱く、逆にいうとクレームが発生しやすいレポートは、米国企業信用調査報告書である。もう20年以上、「米国企業調査報告書は、日本の帝国さん・商工さんと違うんですよ。」、「この情報はこう読み解いて下さいね。」と啓蒙してきたが、与信管理担当者の理解は一向に進んでいないようにみえる。そりゃそうだ、とにかくデータ型で分かりにくいのだから。
ところが実は、一見定量的またはデータだけのように見える米国企業調査報告書であるが、そのデータが何を表しているのかを理解する物差しさえあれば、さまざまな定性情報を類推させるのに十分な情報が網羅されている事が分かる。Dun&Bradstreet、Experian、Coface North America (Veritas)、Creditsafeと様々なレポートを読み続け、またその分クレームに対応してきた(泣)事により習得してきた「読み方のヒント」を少しだけ共有したい。
米国企業信用調査報告書の提供業者
日本において、アメリカ企業の調査と言えば、圧倒的にD&B(ダンレポ・東京商工リサーチと提携)が有名である。しかし、冒頭のクレームに代表されるように、ダンレポ=内容薄いという評価が片方であり、与信管理者達の間では仕様がないから取得するという位置づけにある。そこに代替として位置づけられてきたのが、Cofaceが提供するレポートで、かつてはVeritasという会社が調査に当たっていたが、後に買収されてCoface North Americaに統合された。さらに、帝国データバンクが現地の信用調査会社との提携でレポートを提供したり、Experianは個人情報でのブランドを活かして、企業情報の提供も片手間で行ったりしている。そこに、Creditsafe(クレディセイフ企業情報)が後発の選択肢として加わり、ユーザー側も価格や納期など、様々な尺度からレポートの調達先を選べるようになってきた。しかし、レポートの中に記される内容は、どれも一緒。後述するが、支払履歴情報も各信用調査会社間で融通されているか、大手のクレジットビューロ(支払情報交換所)から調達されるかであり、ほとんど差がない。そうした米国において、現地の写真を撮ってきたり、日本のレポートのように文章でコメントを入れたりという調査会社も小規模ながらあり、興味があればお問合せ頂きたい。
Credit ScoreとCredit Limit
米国企業信用調査報告書のエッセンスとなるのは、対象企業の信用程度を表すスコアである。5段階レンジで示されたり、100点満点で示されたり、調査会社によって表記の違いはあるが、リスクが高い先、低い先を識別する為の尺度としての性格は同じである。ただ、米国の場合は特に、スコアはPD (Probability of Default)という考え方をベースとしており、日本の企業格付のように、商いが大きい会社は評点が高く、当社のような小規模業者は評点が低いというものではない。商いが大きくとも、資金繰りが厳しそうであれば高リスクという評価がされ、小規模や新設企業でも資金繰りに支障がなさそうであれば、低リスクという評価がされる。なお、PDは倒産確率と翻訳される場合が多いが、正しいニュアンスは債務不履行確率である。要は、定められた期限内にお金を払って来ない可能性を示しており、必ずしも倒産して不良債権化するリスクを示しているものではない。この為、与信限度額という表記の辻褄が合うのであり、つまりこの位の金額までであれば、期限内に払ってくれますよ(債務不履行のリスクが少ない)という金額として、「限度額」が示されているのである。「与信限度額が小さいのに、スコアが高いってどういうこと?」という質問を受ける事があるが、限度額程度の金額であれば、まず払って来ないという事はないですよというのが意訳となる。
つづく
まだ触りしか書けていないが、このブログは長文になる気がしている、いやそうなる確信がでてきたので、恐縮ながら何回かに分けて記していきたいと思う。続きに乞うご期待!