スコアの根拠
今となっては米国に限らずという状況になったが、米国企業信用調査報告書は支払履歴を基準とした信用評価(スコア)の代表格と言える。この背景にあるクレジットビューロ(Commercial Credit Bureau) については別のブログでも何度か言及してきたが、同じ定量評価である財務諸表分析と支払履歴分析には、異なる性格がある。
1.財務諸表分析= 手元現預金や収支バランス等の確認により、支払能力(Ability to Pay)に着眼した分析。
2.支払履歴分析= 過去の決済状況の確認により、支払意欲(Willingness to Pay)に着眼した分析。
上の2点を前知識として持っておくと、優良な決算書だから支払が担保される訳ではないという視点が持てると思う。もちろん、シンガポールのように、財務諸表と支払履歴の両方が網羅されればより複合的な分析が可能になるが、米国未上場企業の場合、財務諸表が入手できないのはご承知の通りである。逆に、そうした環境であるからこそ、支払履歴の交換制度が成り立って来たとも言える。
支払履歴の読み方
支払履歴は、以下の表のようにレポートに表示されることが多い。これらのデータを読む際には、3つの視点を常に意識する必要がある。
業種 | 報告日付 | 発生日 | 決済条件 | High Credit | Balance | Current | >30 | >60 | >90 | 91+ | Comment |
通信 | 10-2021 | 09-2021 | NET30 | 100,000 | 90,000 | 100% | 0% | 0% | 0% | 0% | Prompt |
空輸 | 03-2021 | 03-2021 | Others | 250,000 | 200,000 | 10% | 10% | 10% | 10% | 60% | Collection |
材料 | 06-1999 | NA | NA | 150,000 | 0 | 0% | 0% | 100% | 0% | 0% | closed |
1.(支払遅延が)どの程度影響度が高いと言えそうか。
例えば、事前のDDによって当該企業の売上高が100億円程の規模があると掌握していた場合、USD100の支払遅延が発生しているという履歴データがあっても、全体に対する影響度は小さいと言える。対して、情報提供者の業種が被調査先の本業に関連するもので(例:製造業に対して、部品供給業者など)、金額が大きいレコードについては影響度も高いと言える。
2. (支払遅延が)どの程度新しい情報か。
支払履歴データは、ビューロに対して情報が提供されているかどうかに依存する為、あまりにも小さいパパママビジネスなどについては、支払履歴がなかったり、あっても古かったりする。古い支払履歴の中に大幅な遅延情報があっても、割り引いてみるべきである。他方、直近に報告された履歴に、遅延情報が多く発生している場合には、要注意である。
3.支払遅延の頻度
日本の商慣習のように、支払遅延を起こさないように経理部門が夜中まで残業して支払処理を行うという国は、実は珍しい部類である。この約束を守るという道徳は世界に誇れるものであるが、他国の会社を分析する際には、支払遅延(与信管理の視点では回収遅延)は起こりうるという前提でみなければならない。そのメガネを掛けながら、支払遅延がなんども頻発しているのか、特定の業種に偏ったものなのか、はたまたスポット的に発生したものなのか等を見る必要があり、支払遅延が一件あるからといって、すぐにハイリスクと判断するのは、勇み足である。
支払履歴の意味
上の表、支払履歴の例の各項目について簡単に説明すると、以下のようになる。
業種:支払履歴情報をクレジットビューロに提供している会社の業界属性。被調査先に対し、請求を行った会社である為、通信関係、電力、運送などが多くみられる。
報告日付:クレジットビューロに、当該支払履歴を報告した年月。あまりにも古いデータは、参考値となる。
発生日:報告された支払履歴に関わる取引が発生した年月。かみくだくと、請求書が発行された年月。
決済条件:請求書に指定された支払期日までのサイト。OtherやVariedという表記もある。
High Credit: 請求書を発行した会社が、被調査先に対して設定している与信枠。(売掛枠)
Balance:未決済の残高。
Current:期日内に支払われた比率。
30>~91+:支払遅延の比率が、遅延日数毎に区分けされる。60日以上が中度の支払遅延。90日以上は重度の支払遅延として、評価のマイナスに大きく影響する。
つづく
③では、登記情報の把握や、UCCファイリングの読み方などについて、説明したいと思う。