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萎縮を避けて、適正管理を

高まるカントリーリスク

 世界の有力な格付機関や貿易保険会社が、2022年上半期のカントリーリスクを発表し始めています。「百聞は一見に如かず」とはよく言われるもので、さっそく2つの表を引用します。

出典:Coface
出典:Allianz

表から読み解ける事

 各国別の詳しいリスク状況については、各格付機関が詳細を公表していますので、ここでは言及しません。ただ申し上げられる事は、ここまで多くの世界の国々が赤やオレンジのハイリスクに分類された事は、過去にはなかったと思います。

 何点か着目しながら、筆を進めさせて頂きますと;

1.こうした厳しい環境下においてもなお、日本は優良な国家に分類されている

 メディアにおいては、各国の力強い景気回復に伴う金利引き上げに対し、金利上昇もままならず停滞感が続く日本とのギャップが原因となり、超次元の円安が問題視されています。また、奇しくも日銀が政策目標としていた2%のインフレ率を超えるインフレが相まって、庶民の生活が苦しいとか、政権は責任をとれとか言われています。確かに、貿易赤字が常態化している状況は、改善が望まれるところではありますが、インフレ率は各国との比較において良好な度合いにコントロールされており、むしろこれを契機に賃金上昇につながるような企業側の動きが誘発されてくれば、「安い国、ニッポン!」から抜け出す出口さえ見えてくるような気がします。諸先輩方が作り上げた盤石な経済基盤を背景に、ウクライナ紛争等が与える影響のマイナス度合いが、他国よりも小さい点が評価されているのではないでしょうか。

2.実はあの国もなんだね

 次に気になるのがお隣韓国です。CofaceもAllianzも低リスク先に分類しており、繰り返しになりますが、これほど多くの国々が高リスクと評価される中において、素晴らしいことだと思います。アジアにおいて、両方の貿易保険会社が低リスクと評価しているのは、日本、韓国に加えて、シンガポールだけです。ただ残念な事に、徴用工問題をはじめとした日韓問題は依然として両国の関係を冷え込ませており、私が昔訪問した在韓日系企業も、多くが撤退しています。これら3か国の経済交流が高まれば、どれほど地域にプラスの影響を与えるか、考えただけでわくわくします。林外相と朴外相の会談が7月18日に行われましたが、今後の日韓関係がプラスの方向に進んでいくよう、大いに期待したいところです。

3.タイが数年ぶりに有リスク国に

 スリランカがほぼデフォルト状態にあり、その原因の一つに、主な外貨獲得手段であったインバウンド旅行客がほぼゼロになった事が挙げられています。対してタイは、長年に亘る友好的な日泰関係の産物として多くの日系製造業が進出しており、G-Shockを筆頭に数多の製品が海外に輸出されています。しかし、観光業が主要産業である構造はスリランカに通じるところがあり、この点がマイナス要素として評価されたように見受けられます。

カントリーリスクと与信判断

 カントリーリスクそのものが、直接的に海外の取引相手の経営健全性に影響を与えたという事例は、あまり聞いた事がありません。大手総合商社の審査担当者から教えていただいた視点は、国のリスクが高まる事により、当該国の金融機関が直面するリスクが高まるというものです。

 つまりは、カントリーリスクの算出要素の中には、当然財務健全性(外貨準備高など)が含まれており、その指標が悪化したという事はつまり、国そのものの財務状況に黄色信号が灯されたという判断になります。そうなると、国外への資金流出を避けるために、海外送金規制を敷く可能性が高まり、取引先が決済に使う銀行が、その流れを受けて日本に対する送金が履行できなくなるという流れです。

 なので、取引先そのものがデフォルトを起こす、倒産してしまう、という直接的なリスクよりは、一歩、二歩下がった間接的なリスクと理解する事ができるでしょう。ゆえに、赤やオレンジに転じた国々の企業との取引を、極端に回避しようとするのは少し行き過ぎな感があり、取引先企業が直面する外部環境の一要素として頭の隅に入れておくというレベル感が、冷静な与信判断に求められる視点と考えられます。

 

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