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異次元好景気からの転換か~米国小売業倒産~

はじめに

 つい最近まで、停滞する日本経済と、高度なインフレを伴う異次元の成長軌道に乗る米国経済が比較され、「日本は終わりだ。シンガポールに移住しよう。」などという記事が、巷に溢れていた。ところが2022年7月に、すでに米国経済は後退局面に転じたという論調が多くみられるようになり、物価が高くて暮らしにくそうと思う反面、すし職人の年収が8000万円もあるといった記事から感じる大衆の「米国はよさそう」というイメージから、ややかけ離れた印象が拭えなかった。

 しかし、2023年に入ったばかりの1月9日、トムソン・ロイターが「Factbox: The 10 biggest U.S. retail bankruptcies in 5 years」と題する記事を発表し、先行きの不安定さが大型倒産によって口火が切られたことと理解するのに充分な内容である。(元記事の引用は禁止されている為、各自検索されたい)

大手小売業者の倒産

 記事の中では、米国で発生した小売業者の10大倒産について整理されており、Bed Bath & Beyondが倒産準備段階にあるという情報から紹介されている。公開資料を独自に収集したところ、同社はS&P500の銘柄にも含まれ、北米を中心に990以上の店舗を展開する大手家具小売業者との事。

 やはり、コロナの影響による消費の減退と、巨大量販店、E-コマースとの競合はじわじわと当社の体力を奪ったようで、2020年期売上高1兆1,158憶ドルから、2021年期の9,233億、直近2022年期は7,867億ドルと、減収基調にあった。他方損益構造は、給料水準の上昇もあってか販管費負担が重く、巨額の減価償却もあり、毎期赤字を計上している状況である。2022年2月期では、業容悪化に伴い、仕入先の与信枠削減があったこともうかがえるほか、新株発行に伴う巨額のキャッシュ流出があり、手元現預金が期初の1,352億ドルから470億ドルに減少。2023年2月期の第一四半期では、200億ドル程の資金調達が行われた模様であるが、本業のキャッシュ流出を補えず、138億ドルまでキャッシュが減少している。

 このように、上場企業であれば財務諸表が公開される為、数字を追いかける事によってある程度の倒産予測分析は可能である。しかし、米国未上場企業の場合、決算書はまず開示されることはなく、それ以外の要素を分析する事により、与信判断をしなければならない点は、前のブログでも言及してきた。

倒産に至る企業の傾向

 ただ面白い事に、この上場会社についても、米国未上場会社が倒産に至る前に見られる傾向と類似点があり、いくつか紹介してみたい。

 1.支払遅延の頻発

  米国のコマーシャルクレジットビューロには、多くの支払履歴情報が蓄積されているが、期日内に払う企業よりも、何日か遅れて決済されることが多い。ただし、90日以上の履行遅延債務は自社の信用程度を大きく毀損する為、企業規模の大小問わず避けられる。ただ当社については、多くの倒産に至る企業がそうであるように、2022年6月頃から支払遅延日数の長期化が目につき、90日以上の遅延債務も記録されるようになっていく。

 2.債権回収業者の登録

  取引先が債務を履行しない場合、持っている債権を債権回収業者に移譲するのは、米国の商慣習上多くみられる。またCollection Agencyと呼ばれる債権回収業者は、その回収状況をコマーシャルクレジットビューロに報告している。つまり、債権回収業者が動いているという事は、回収をリスクと感じた仕入先がある事を示唆しており、倒産に至る過程を見抜く重要なカギとなる。当社についても、その記録が報告されている。

 3.UCC

  UCCについては、担保権の設定であると米国企業信用調査報告書の読み方で説明した。自社の債権を保全しようと思う取引先が多ければ、UCCの件数は増える。それが直近に掛けて増加傾向を示していれば、それだけ不安に思い始めている取引先が多くなっている事の表れであり、要注意なのだ。やはり当社についても、それが当てはまっている。

まとめ

 倒産件数が増加傾向になったり、アナリストたちが発表する景気の先行き動向が厳しいものとなった時、リスクを煽って、様々なリスクヘッジのサービスを導入させようとする企業がある。これはリスクヘッジであり、利用者側のメリットにもなるので、人を困らせて金銭を得ようとするようなブラック企業とは異なる。ただし、いつの時代も、また中国のような経営環境であっても、その中を生き残るような優良企業というのは多く存在しており、その国の中のすべての会社が倒産するような事態はない。ゆえに、やはりいかにしてそうした優良会社を見抜いて取引関係を強化していくかが重要であり、その際の羅針盤の一つとして、信用調査報告書が果たす役割は非常に大きいと思う。

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