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中国のピアノ業界が崩壊した背景と対策

業界特有の倒産傾向ー過度に決算書に依存するな

2023年後半、中国のピアノ業界に衝撃が走った。富裕層の所得減少により、ピアノの需要が急減し、半数近くの製造業者が倒産に追い込まれたのだ。この事例は、決算書に過度に依存して与信判断を行うと、どのようなリスクが生じるかを示している。日本の楽器関連業界は、中国市場の変化にどのように対応すべきか。中村格付研究所の分析を紹介する。

中国のピアノ業界の崩壊

中国は世界最大のピアノ市場であり、2019年には約50万台のピアノが販売された。しかし、その後は市場の縮小が続き、2023年4月からは売上が激減した。中国国内のピアノ販売台数は、前年比で90%減となり、多くのピアノ関連業界の企業が経営危機に陥った。実に約半数のピアノ製造業者が倒産に至ったとされる。

この背景には、中国の富裕層の所得減少が大きく影響している。中国の経済成長は、コロナ禍や米中貿易戦争の影響で鈍化し、不動産や株式市場も低迷した。富裕層は消費を控えるようになり、高価なピアノは敬遠されるようになった。また、中国政府は教育改革を推進し、子供の過度な学習負担を軽減するために、塾や習い事を規制した。これにより、ピアノ教室の需要も減少した。

決算書に頼りすぎると見逃す危機

中国のピアノ業界の崩壊は、決算書に頼りすぎると見逃す危機の典型例である。決算書は、過去の一時点における企業の健康状態を示すものであり、経営環境の変化には追いつかない。例えば、12月決算の企業の決算書は、早くても翌年の5月には入手できる。しかし、その間に起こった市況の悪化は、決算書には反映されていない。そのため、決算書に準じて付与される信用調査会社の評価や格付け機関の格付けも、現状を正しく反映していない可能性が高い。

日本でも、リーマンショック以降の不動産関連業界がその例である。2006年、2007年頃には、不動産関連業は好景気であり、特にマンションデベロッパーの業界は飛ぶ鳥を落とす勢いだった。しかし、2008年9月にリーマンショックが起こると、直近の3月期決算で最高益をたたき出した企業も、倒産が相次ぐこととなった。決算書に過度に依存して与信判断を行った時のリスクが見て取れる。

中国市場の変化に対応する方法

中国市場の変化に対応するためには、決算書以外の情報源を活用することが重要である。信用調査会社が提供する「変動情報をキャッチするツール」を活用するのが一つの方法である。モニタリングと呼ばれるこのツールは、取引対象の中国企業に何か変化があった場合、それをアラートとして通知してくれる仕組みである。例えば、登記情報の変更、訴訟情報の発生、財務情報の更新などが対象となる。これにより、決算書には反映されない企業の動向を把握することができる。

もちろん、モニタリングでもキャッチしきれない情報は必ずあるため、月次での支払いに遅れがないことを毎月必ず確認することも大切である。また、回収遅延が発生した時に、毅然として取引関係を解消して不良債権リスクを最小化するのか、外部の債権回収業者を使うのか、保険に回すのか、その対処方法について社内で決めておく必要がある。初動が遅れると、それだけ回収の期待値は下がると思って間違いない。

最後に、中国市場の変化に影響を受けた日本の楽器大手のヤマハの事例に触れておきたい。ヤマハは、中国でのピアノの需要減退を受け、2023年8月から株価が急落している。中国市場での好調な販売が、同社の成長戦略のコアであったことがこの背景にある。同社は、中国以外の市場の開拓や、デジタルピアノなどの新製品の開発に力を入れているが、市場の回復には時間がかかりそうである。

個別業界の倒産増加は、与信判断において常に注意すべき事象である。中村格付研究所は、そうした審査の目をサポートする為に引き続き情報を提供していきたい。関連業界の審査担当のみなさまには、是非とも自社の利益を守るために尽力いただきたいところである。

参考:

大陆钢琴销量断崖式下降 大量琴行倒闭 | 大纪元 (epochtimes.com)

ヤマハ、「中国ピアノ市場の変調」により曲がり角 2024年は新たな「成長ストーリー」を描き出す年 | 専門店・ブランド・消費財 | 東洋経済オンライン (toyokeizai.net)

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