米国におけるクレジットビューロの草分けであるダン興信所は、日本でも良く知られています。しかし、実は英国では、1803年に興信所がすでに組成されていました。その機関が発展して、三大クレジットビューロの一翼を担うExperianが誕生しました。この起源は、ロンドンのSavile Rowのテーラーが支払遅延や不払いを引き起こした発注者の情報を共有するために始まったものです。同業者との信頼性の高い情報交換が、与信判断の原点となっています。
現代では、信用調査会社が数多く存在し、クレジットビューロに信用照会をする代わりに、信用調査レポートを取得し、総合的に判断を行うことが一般的です。されど、米国や欧州、シンガポールなどでは今でもクレジットビューロから供給される支払履歴のデータが、信用調査レポートの重要な要素とされています。
英国では政府主導でCommercial Credit Data Sharing (CCDS)という制度が整備され、金融機関が持つ中小企業に対する口座開設の履歴や、貸出状況、債務履行の状況までが公開されています。売上高が2,500万ポンド以下の中小企業や、個人事業主に対する資金貸付業の競争促進を目的に英国政府が整備したもので、HSBCやLlolyds Bankなど、9つの銀行にデータの公開が義務付けています。
これらのデータは指定信用調査機関(Creditsafe(日本ではクレディセイフ企業情報)、Dun&Bradstreet, Equifax, Experian )に提供され、貸金やリースなど金融業界の企業は信用調査機関が算出するクレジットスコアだけでなく、銀行取引に関連する詳細データを閲覧できます。
一般企業は詳細データを閲覧できませんが、銀行取引の概況(口座状況、借入状況、クレジットカードの履行状況)が分かり、小売業などの与信を行わない事業体も銀行との取引の有無を確認できます。
過去のブログで触れたように、日本のコマーシャルクレジットビューロは金融機関向けに閉鎖されており、一般の事業会社はアクセスできません。しかし、英国のように銀行向けに情報が開示されるならば、一般企業の与信判断が向上し、経済に大きな影響を与える可能性があります。金融債務の履行状況が分かることで、信用評価の低い企業に与信する際にも、回収のコントロールがしやすくなります。また、これらのデータは月次で更新されるため、古い情報に頼る必要がありません。
現在、株価がバブル期以来の高値を記録している一方で、4月以降に倒産が急増すると予測されています。与信管理の重要性がますます高まる中、英国政府のような施策が日本政府にも導入され、経済の前進に寄与することを期待しています。
参考:
Making sense of commercial data sharing to improve trade credit risk decisions – Experian UK
New Financial Agreement Data (creditsafe.com)
企業の「倒産」が4月以降に急増の恐れ!帝国データバンクが最新データで解説 | 倒産のニューノーマル | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)