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初めての企業信用調査

配属

新卒で信用調査会社に入社した当初は、英語ができるという事で海外関連の部署に配属された。20余年に亘り経済成長を続けるインドの再興がちょうど始まった時代。そのインドに出張させてもらったり、それは充実した日々を過ごした。

5年ほど経過した頃「お前もいよいよだな」という事で、花形部署である調査部門に異動となった。表向きは金融・建設・不動産を担当するという部署であったが、反社、画廊、パチンコ店、墓石などなど、先輩にいわせると「怪しそうな金が動く業界すべて」を担当する強者揃いの調査部隊だった。

手足が震える

今でも忘れはしない最初の信用調査は、カプセルホテルの経営、それらへの投資や証券化ビジネスを手掛ける新興企業であった。これまで調査の依頼が入ったことがない会社で、一から全部調べなければいけない先。商業登記を血眼でなぞり、会社の業歴や資本金規模、代表者の自宅住所から為人を類推する。

もちろん、代表者名を使って過去の倒産歴を調べ、新聞記事検索なども社内の部署に別途手配済み。同姓同名の逮捕者や、反社などが該当すれば、その記事のコピーを送ってきてくれる。代表を兼務している企業なども洗いざらいチェックして、不良なレコードがないか事前調査を進める。

いよいよ初めての取材交渉。手足が震え、汗がとまらない。受話器に水気が感じられるほど緊張しながら、震えた声で話す。

「信用調査会社ですけれども、XX社長お願いします。」

我々からの電話は、テレマーケティング会社がやるコールドコールよりも圧倒的なコンバートレートを誇る。信用調査会社の名前を出せば、ほとんどの場合社長につながるのだ。

取材交渉

「△△社長、初めまして。信用調査会社の中村と申します。御社に対する信用照会があり、取材のお時間を頂きたくご連絡いたしました。」我ながら文字に起こすと怪しさ漂うフレーズだが、取材要請の際は鉄板のフレーズ。

「あー、信用調査ね。いいけども、依頼者はだれなの?」だいたいこの反応が返ってくる。新人の私はたじたじになり、依頼者は言えないと答えた。

「だったら答える訳ねぇだろう!」ガチャン。

やってしまった。

先輩、ノーコメントでした!半泣きになりながら、周りの先輩調査員にアドバイスを求めるも、

「うちにノーコメなんていい度胸だ。好きに書いてやれ。」と豪快に背中を押してくれる。もちろん彼らは、最初調査に対応しないと言っていた社長から、調査結果が依頼者に亘った頃お詫びの電話が入り、再度訪問の上でものを売るという必勝パターンを何度も経験している訳で、好きに書けばどの道向こうから連絡が来るという事だったのだろう。

取材開始!

相手が反社だろうが、詐欺師だろうが、必ず名刺を渡しに行けというのが、私が勤めた信用調査会社のポリシーだった。もし貴方が営業担当だとして、電話営業で怒鳴られた先に、訪問する勇気は沸くだろうか?電話口で怒鳴られただけで、星一徹みたいな人物が頭に浮かぶのに、訪問するなんてわざわざ殴られに行くようなものだ。っと当時は本気で思っていた。

台東区にある同社の本店に向かい、階段を上ってガラス戸に手を掛ける。最悪なことに、ガラス戸越しにはオフィスの中が見えて、中の従業員達が明らかに怪しい奴が来たという目でこちらを見てくる。もう、足がガクガク。

意を決して、「信用調査会社です!XX社長いますか?」と切り出したが、25歳前後とおぼしき女性従業員が「社長はいません。さっきの電話だいぶ怒ってたので、貴方に会うこともないと思いますよ。」と返される。内心「いいよ、好きなように書いてやるから。」と、強面(と思われる)社長がいないと分かったとたん、勇気が沸く(笑)

オフィス内部全体を、さっと目で確認。従業員数、座席の数、オフィスの明るさ(照明&雰囲気)、観葉植物の有無をチェックする。とたん、カレンダーが目に入る。「あっ、ひ〇しんだ。」

側面調査

被調査先が取材に応じない場合は、ほかのソースからの情報収集が極めて重要になる。今も慣行されているか分からないが、金融機関と信用調査会社にはネットワークがあり、取引金融機関から話が聞けることも少なからずあった。メガバンクは流石に厳しくなりつつあったけど、葛西辺りの支店は話してくれたし、信金はお茶まで出してくれることもある。

この会社の取引銀行(ひ〇しん)が話してくれたかは忘れてしまったけど、HP上に直営のカプセルホテルが2か所ほど出ていた。客を装って、金曜日に宿泊したいけど混んでるか?平日だと空いてるかなどと聞き込みを行い、カプセル数×込み具合(稼働率)×料金でおおよその売り上げを推計。先輩のアドバイスで、借入金額を推計し、調査報告書を仕上げた。

調査対応と信用度

証明に値するような統計データはないが、信用調査会社の取材に協力しない会社は、協力する会社よりも倒産しやすいという経験値が共有されている。この台東区のカプセルホテルは、現在はもう存在していない。

データの信ぴょう性

海外の多くの国では、被調査先から収集された情報はあまりレポートに掲載しない。簡単にいうと、嘘くさいからだ。他方日本では、被調査先から開示される情報が、信用調査報告書のエッセンスになっている。ただし、上の例であげた通り、売上や借入残までもが推定値で報告される場合もあり、調査報告書の内容を鵜呑みにするのはおすすめしない。中には「どの決算書持ってく?銀行用?税務署用?」と聞いてくる社長もいるのだから(笑)

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