業界団体による企業審査機能
2021年9月24日読売新聞朝刊に、「生保代理店に評価制」という記事が掲載された。
それによると、国内生保40社以上で作る生命保険協会が、2022年4月までに保険商品を販売する代理店の評価制度を構築するというもので、手数料の高い保険を優先的に売り込むような、顧客本位ではない営業姿勢を正し、業界の健全化を進めていくことが目的とされている。
専門組織のスタッフが、代理店に立ち入って調査を行う由で、評価項目は約300にも及ぶそうだ。将来的には、複数段階の格付として、優良な代理店か否かを客観的に評価し、顧客が保険代理店を決める際の判断の一助として活用される事になる。
個別の業界が独自の信用審査機能を持つ事は極めて健全である。従来は、資本家が特定業界の興隆を目的に信用調査機関を設立し、例えば材木業界に特化したレンゴー調査のような信用調査機関があったが、業界団体がその機能を担うという自主性が興味深い。以前のブログで触れたシンガポールのクレジットビューロは、最初は建設業、次は製造業など、業界団体ごとに支払情報や信用情報の交換制度を構築し、それらを統合する事によって全業界をカバーするビューロとして位置づけられることなった。 今回の生命保険協会の取り組みが、日本におけるクレジットビューロ創生の動きの一つとなれば、非常に頼もしい。
消費者を守るという視点
国内企業の信用調査会社の情報は、大方会員企業に対してのみにアクセスが制限されており、主としてBtoBにおける与信判断の材料として活用されている点は、何度が指摘してきたとおり。ビッグローブなど、消費者がWeb決済で直接データを購入するルートもあるにはあるが、消費者に対して積極的な利用を促しているものとは残念ながら言えない。
そうした状況のもとにおいて、晴れの日問題や、かぼちゃの馬車問題など、消費者が企業側の(故意・過失によらず)経営難によって約束されたメリット(債権)が履行されないという案件が散発しており、消費者が信頼できる企業信用情報に容易にアクセスできるようにする事は、日本における喫緊の課題と言える。また、消費者が企業の意図的な詐欺、Fraudに巻き込まれた際、その企業をブラックだと社会的に発信する術がない(SNSのつぶやきはここでいう社会的から除外)事も問題である。
シンガポールの例を紹介した通り、日本において一個人が企業が行う詐欺に巻き込まれた場合、消費者センターに相談を持ち掛けたとしても、それ自体が他の個人をその企業との取引から守る事には直結しない。信用調査機関は、そうした消費者を守る為の機能も果たすべきで、生命保険協会がこれを推進しようとしているのは、崇高で尊敬の念を抱かずにはいられない。