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3Mの事例に学ぶ与信判断の視点

 各メディアが一斉に報じたところによると、米国3M社が米国財務省外国資産管理局(略称OFAC)に対して、1000万ドルの制裁金支払に応じたそうである。OFACによると同社は、対イラン制裁に違反する可能性がある54件の事件を抱えており、2016年から2018年の間、同社のスイス現地法人がこれに加担した可能性がある状況とコメントしている。

 同スイス現地法人が、ドイツにあるリセラー向けに規制該当製品を輸出したことがこの発端で、特に同スイス法人がエンドユーザーがイランにあることを承知していたと思われることと、ドイツのリセラーがイラン制裁リストに該当する輸出禁止先であったことが問題視されている。このスイス現地法人の意思決定には、3Mの中東拠点に勤務していた米国人管理職が深く関与していたとも報じられている。

 同じような事例で、日本のメジャーな飲料メーカーのアジア現地法人社員が、営業ノルマの苦しさから逃れたいが為に、個人ブローカーに大量の在庫を販売。それが北朝鮮に輸出され、制裁の対象になったというものがあり、従業員に対していかに安全保障貿易管理、外為法、犯罪収益移転防止法の観点を育てるかは、今日の企業経営において大事な要素と言えるのは間違いない。

 そうした事例に色々と接すると、企業が行う一般的な与信管理のプロセスは、片手落ちであると言える。つまりは、帝国データバンクや東京商工リサーチに依頼し、取引の相手になる企業を調べ、フル活用している会社は決算書を社内システムに入力して社内格付を算出する。忙しい営業マンや、多くの中小企業は、信用調査報告書の中の評価だけをみて「へ~。」という感想を頂く程度にとどまるのが実情だ。

 しかし、そうした取引対象企業を単体としてみるアプローチでは、上のような事例は回避できない。なぜならば、その対象企業こそ上の例でいうスイス現法である可能性があり、それらがドイツを通じてイランに販売する可能性があることまで見抜けないからだ。

 米国NDAAでは、指名5社との取引を禁止することはもちろんのこと、それらと取引を行っている企業との商取引を禁止。さらには、それら5社が製造する部品や半製品が使用されている完成品を仕入れる際にも色々と規制がある。

 そのようなコンプライアンス違反が自社に訴求しないように対処するには、取引開始前の調査範囲を広げるしか策はない。取引の対象企業はどこからモノを仕入れているのか。また対象企業が販売する製品はどこに流れているのか。それら仕入先・販売先はどんな会社か?株主になっている個人や法人は、制裁規制の対象になっていないか。ここまで調査・確認を行って、初めて取引開始の意思決定が可能であり、支払う・支払わないの与信管理はその後工程と考えるべきだ。

 信用調査会社が設定する企業調査料は、大方1万円~2万円程度である。3Mが直面した1000万ドルの制裁金リスクについて、事前に察知できる可能性が高まるとすれば、大した金額ではない。しかし、ビジネスとしてより多くの利益を産み出すことが命題であるとすれば、極力費用は抑えたいところである。

 そうした審査担当者には、商業登記の原本取得を推奨したい。信用調査報告書の半分程度の費用で、各国の法的公示力がある登記原本の写しや、場合によっては登記内容だけを転記した簡易版レポートとして提供される場合もある。日本国内の商業登記にようやくUBOが紐づけられつつある話題は別ブログに書いたが、国内の登記事項よりも海外のそれは情報量が多いことが過半である。例えば、ほとんどの国の登記では、株主情報が確認できるし、その持ち株比率からUBOの特定が可能であったりもする。

 取引対象企業については上位サービスである信用調査報告書を取得し、その企業の株主や取引先についてこうした簡易ソースで情報収集を行えば、費用は抑えながらも網羅的に商流や資金背景を明るみにすることができる。その後工程となるAML/KYCについては、CISTECのチェーサーを使ったり、トムソン・ロイター、ダウジョーンズ、レキシスネキシスのような大手を含めた民間企業が、様々なサービスを提供しているので、それらを活用すればよい。

 まとめると、取引相手だけを調べれば良い時代はもう過去のもので、株主等の資金背景や、その取引先の商流(仕入先・販売先)についても広く情報収集を行うことが必須になっている。日本企業が海外当局の制裁対象になる事案も発生しており、日本の富の海外流出を避ける意味でも「あの社長の紹介だから、大丈夫だな!」などと言う意思決定は間違ってもされないようお願いしたい。

 

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