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国内企業信用調査~社会に資するビューロに~

信用調査の起源

 日本における企業信用調査の歴史は長い。業界大手の2社は、何れも業歴100余年を誇り、最大手の帝国データバンクにおいては、渋沢栄一がその創業に関係する事で注目されるなど、まさしく伝統産業と言われるのに相応しい。

 東京・市ヶ谷の防衛省前に、帝国データバンク東京支社があり、帝国データバンク歴史資料館が併設されている。

 この業界に携わる人間にとっては非常に興味深く、前職では新しく採用した社員を連れて、何度も見学しに行った。1時間程度で見て回れるほど良いボリュームで、散歩ついでにでも是非訪問されることをお勧めしたい。

 もちろん業界最大手である帝国データバンクにも、ベンチャービジネスとしての創業者があり、その創業者の信条(今でいう流行りのビジョンとやらか。)からは、短文ながらもとても深い洞察を学び取る事ができる。

 曰く「会員企業を詐欺師から守る。」当時は、日露戦争後の好景気に伴い、新設企業が乱立していたそうだ。そうした中で、よからぬ事を企むやからが出てくるのは、いつの時代にも通ずるものがある。

 その創業の信条から、企業データの使われ方は大きく変遷していくことなり、現在では「潰れそうな相手から手を引いて自社を守る」事が主な使途になっているように映る。「それは正義なのか?」と自問する事もあるが、リーガル・ハート~いのちの再建弁護士~に出てくる信用調査会社の描かれ方が、ようやく再建を図ろうとしている企業に関する悪い情報を流布する当事者としてである事に、自分としては解をみいだしたように思う。

社会に貢献するデータ提供

 そんな事を前提に新聞に目を通した時、読売新聞8月11日朝刊に「フリーと契約書 義務拡大」と題する記事が掲載された。詳細は割愛するが、クラウドワークスなどの普及により、フリーランスの方々が、企業を相手に役務を提供するという機会が多くなっている。対して、企業はその力関係を背景に、品質に難癖をつけたりしながら、費用を支払わないケースがあるそうだ。そうした問題を、契約書の締結を中小企業にも義務付ける事により、少なくしていこうという動きである。

シンガポールの例

 シンガポールには、かつて同国最大のクレジットビューロとして、DP Informationという会社が存在した。企業のみならず、個人についても支払いぶりや訴訟関連のデータを収集し、信用のおける企業・個人にはより与信枠を与えて経済の拡大に寄与、信用の悪い対象に対しては絞り込みを行う。その判断材料として提供し続けていたデータは、シンガポール政府からも高く評価されていた。

 私は、このDP Informationのやりかたを日本に広めようと暗躍(笑)していた時があり、彼らから細かくビジネススキームを教えてもらったものだった。その中の一つに、「離婚後の養育費を払わない悪い男達」というテーマがあった。この話を聞いた時「あぁ、俺日本人の男でよかったー」などと冗談めいて言ったものだが、社会的な意義は非常に多きい取り組みである。

 いくら共働きが進むシンガポールとは言え、世界一高い生活費をねん出する為には、シングルマザーの収入だけでは不足感が否めない。ゆえに、裁判所が命令を下した養育費の払い込みをいかに履行させるかが、経済的にも安心な生活を送る為の重要な課題になる訳だが、かの国の男性陣もただでは払いたくないという事らしい。

 そこでDP Informationは、シングルマザー向けの相談窓口を開設。元夫が養育費を支払わない場合、その申請を受け付ける事とした。これが強烈なクレジットビューロの強みとシンクロする。

 相談を受けた後、DP Informationは事実確認の為の連絡を入れる。企業データベースも、シンガポール国内企業100%のカバー率である為、自宅の電話の着信を拒否しても、職場に掛かってくる。電話がつながると、そこで養育費支払の延滞に対して警告を行う。

 「なんでお前なんかに言われなきゃいけねぇんだ?関係ねぇだろう?おぉう?」などと言った日には最後、DP Informationのブラックリストに名前が載る。

 このブラックリスト化が強力で、ぐうの音も出せないくらいの経済的制裁となる。冒頭紹介したクレジットビューロの存在意義を理由に、DPのデータベースは、普段からほぼすべての金融機関によって活用されている。ゆえに、そのデータの中にブラックとしてのフラッグが立つだけで、影響が甚大なのだ。具体的には、すべてのクレジットカード決済の停止、場合によっては銀行口座の凍結である。さすがにたまらんと、養育費の支払いに応じる殿方が飛躍的に増加したそうだ。

それを受けて

 そうして考えてみると、現在の国内における信用調査は一対一の取引に際して、判断材料として活用されているのは結構であるが、その事自体が社会的に最大限の効果を与えているかというと、少し不足している感じがする。例えば皆さんの取引先が、皆さんにお金を払って来なかった場合、その事実を相談してそれを広く広める事により支払を促す、あるいは社会的制裁を加えられる相談先と問われて、ピンと来るだろうか?弁護士先生はそうかも知れないが、あくまでクライアントに対する奉仕であり、その債務不履行の情報を横展開するとは想像しにくい。

 個人的には、信用調査会社こそ相談役の機能を担うべきだと考えいる。特に、読売新聞の記事に出たような事案であれば、フリーランスのみなさんの駆け込み寺として信用調査会社が機能し「お金を払わなければ、評点下がりますよ。」と、支払いを促してあげる事ができるはずだ。企業側にとって、そのフリーランスへの支払いを躊躇した事により信用調査会社からの評価が悪化し、銀行融資や他社からの決済条件が前金など厳しいものになるという影響を考えれば、払ってしまった方が良いという判断になるだろう。

 中々、当社のような吹けば飛ぶような会社では難しい取り組みであるが、大手二社にはぜひそういう方向で業界をけん引してもらいたいと期待している。

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